死ぬ気で新婚旅行 (同人誌書き下ろし冒頭部分) 暖かな太陽の光が降り注ぐ、穏やかな昼下がり。 イタリアにある田舎町の一角を、車体の長い黒塗りの高級車が一台走っていた。 その高級車は町を抜け、緑豊かな田園を走り、緩やかな傾斜の丘を登っていく。丘からは美しい町並みが見渡せ、緑に囲まれたそこは都会の喧騒を忘れさせるとても和やかな場所だった。 そんな光景の中を走り抜ける高級車の後部座席には、ボンゴレ十代目である沢田綱吉とボンゴレ幹部であり超一流ヒットマンのリボーン。そして前の助手席にはリボーンの妻であるランボの姿があった。 綱吉は窓越しに丘からの美しい景色を眺め、前のランボに笑顔で話しかける。 「この地区は穏やかで綺麗だね。何度訪れても落ち着く感じがするよ」 「ありがとうございます、十代目。そう言って頂けると、ボスも喜びますよ」 そう、この美しい景観が自慢の地区は、ランボの出身ファミリーであるボヴィーノファミリーが領域にしている地区だった。 今日綱吉がこの地区に訪れた理由は、ランボが以前巻き込まれたコルヴォファミリーの件でドン・ボヴィーノに挨拶をする為である。 その為に綱吉は護衛を兼ねてリボーンとランボを連れてきたのだ。 「ドン・ボヴィーノにお会いするのはリボーンとランボの結婚式以来だからね、久しぶりだから楽しみだよ」 「ええ。ボスもとても楽しみにしてます」 そう答えるランボは、ニコニコとした笑顔を浮かべてとても上機嫌なものであった。 そう、ランボにとってボヴィーノを訪れるという事は里帰りという事なのである。 結婚してから何度もボスに会いたいと願い、先日内緒で里帰りをしてみればコルヴォの件に巻き込まれたのだ。そのせいで、ランボは今までドン・ボヴィーノとゆっくり話す事すら出来ずにいた。 だが、今日は綱吉の護衛を兼ねて公式で会えるのだからこれ以上に嬉しい事はない。 ランボはそれを思うと、機嫌がどんどん浮上していったのだ。 そんな上機嫌なランボの様子に綱吉は目を細めると、次に自分の隣に座っているリボーンに視線を向けて苦笑した。 リボーンは行き先がボヴィーノ屋敷だと分かってから、ランボと反対にずっと不機嫌な様子を見せているのだ。 「リボーンもドン・ボヴィーノに会うのは結婚式以来だよね。ちゃんと挨拶しなきゃ駄目だよ? リボーンの義父でもあるんだから」 「俺の義父だと?」 リボーンは義父という言葉に眉を顰め、綱吉を鋭く睨む。 だが、綱吉はリボーンの睨みに怯んだ様子もなく、相変わらずの笑みを浮かべて「当たり前だよ」とはっきり言い切った。 「そうだよ。ドン・ボヴィーノはランボの父親みたいなもんなんだから、ランボと結婚したリボーンにとっては義父だよ」 何を今更という口調の綱吉に、リボーンは内心で「そういう事になるのか……」と深く息を吐く。 結婚する際、結婚はファミリー同士を繋げる為という事で『仕事』と捉えていた為、あまりそういった事を深く考えなかった自分を悔いる。リボーンにとって『親』や『結婚』という認識は薄く、そこまで意識していなかったのだ。 こうして、笑顔の綱吉とランボ、それとは反対に不機嫌なリボーンを乗せた高級車は、ボヴィーノ屋敷に向かって緑豊かな丘を登っていくのだった。 「ようこそ、ボンゴレ十代目。よく来てくださいました」 綱吉達がボヴィーノ屋敷に到着すると応接間に通され、直ぐにドン・ボヴィーノが姿を現した。 ドン・ボヴィーノの姿に綱吉は笑顔を浮かべ、「お久しぶりですね」と握手を交わす。 応接間にはリボーンやランボを始めとして複数の護衛がいたが、ボスの二人からは穏やかな雰囲気が漂っていた。 ボンゴレとボヴィーノの間には、先日のコルヴォの件があったが、それ以外の経済面などは同盟ファミリーとして関係は良好なのである。 「本来ならこちらがボンゴレを伺うべきはずなのに、来ていただいて申し訳ない」 「いえ、今回は挨拶を兼ねてお詫びしたい事もありましたから」 二人はそう挨拶を交わすと、大きくゆったりとしたソファに向かい合うようにして座った。 リボーンは綱吉の隣に控えるように座り、ランボは綱吉の「ボスに会いたかったんだろ?」という言葉でいそいそとドン・ボヴィーノの隣に座る。 「ボス、お久しぶりですっ」 「ああ。私も会いたかったよ、ランボ」 ランボが嬉しさを隠しきれない満面の笑みをドン・ボヴィーノに向ければ、ドン・ボヴィーノも嬉しそうにランボの頭を撫でた。 二人は血縁関係のある本当の親子ではないが、それでもそれ以上の信頼と関係が築かれているのである。それはランボが生まれて間もない頃からボヴィーノにいた事もあり、ドン・ボヴィーノにとっては息子のように可愛がってきた子供なのだ。 ランボとドン・ボヴィーノはこうして再会を喜んでいたが、不意に、ランボの表情に陰りが指す。 「ボス……。この前はすいませんでした……」 申し訳なさそうにそう言ったランボに、ドン・ボヴィーノは「どうしたんだね?」と心配気にランボの顔を覗き込む。 「ボヴィーノがコルヴォファミリーの危険に晒された時、オレはボスの役に立ちますって約束したのに……」 ランボは語尾を弱め、「本当にすいませんでした……」ともう一度謝罪する。 そう、ランボはドン・ボヴィーノが止めたにも関わらず、役に立つからと勝手にコルヴォの件に乗り出し、そして情けなくも敵の手中に落ちてしまったのだ。 それを思うと、ランボは情けなさと居た堪れなさを感じてしまう。自分が捕われた事で、ボンゴレとボヴィーノに迷惑をかけたのだから。 そんな思いから、ランボはドン・ボヴィーノに咎められる事を覚悟し、「ごめんなさい、ボス……」と深い謝罪を繰り返した。 だがこうしたランボの思いを知りながら、ドン・ボヴィーノがそれを咎める事はなかった。 「それはランボが気にする事じゃないんだ。だから謝る必要はない」 「ボス……?」 予想に反した言葉を掛けられ、ランボは戸惑ったようにドン・ボヴィーノを見やる。 しかし、ドン・ボヴィーノは「いいんだよ」とランボの頭を優しく撫でるだけだった。 「ランボ、そんな謝罪よりもファミリーの者達に顔を見せてきなさい。お前が顔を見せに帰ってくる事を、皆が楽しみにしていたよ」 ドン・ボヴィーノはそう言ってランボをソファから立たせる。 「でも……」 ランボはドン・ボヴィーノに戸惑った様子を見せた。 ドン・ボヴィーノの『お前が気にする事じゃない』という言葉も気になったが、それよりも『皆に顔を見せておいで』という言葉の方が困ってしまった。今はボス同士の会談中であり、護衛の自分が席を離れる事は躊躇われたのだ。 そんなランボの躊躇いを知ってか、ふと綱吉が「大丈夫だよ」と笑顔で口を開く。 「ランボ。此処にはリボーンもいるし、大丈夫だから楽しんでおいで」 綱吉にまでそう言われてしまえば、ランボに断る術はない。 ランボは戸惑いを残しつつも、「それでは少し失礼します」と綱吉とドン・ボヴィーノに礼をする。そしてそのまま応接間を出て、ボヴィーノの懐かしい面々に会いに行くのだった。 こうしてランボが応接間を出た事によって、綱吉とリボーン、ドン・ボヴィーノが残される。 騒がしいランボが抜けることによって、応接間には静寂が訪れた。 綱吉とドン・ボヴィーノは無言で向かい合っていたが、しばらくして口火を切ったのはドン・ボヴィーノの方だった。 「ボンゴレ十代目、貴方が直々にボヴィーノに足を運んだのは、先日のベルディーニとコルヴォの一件についてですね?」 ドン・ボヴィーノの言葉に、綱吉は苦笑混じりに「その通りです」と頷く。 「ベルディーニを始めコルヴォファミリーの者達はボンゴレで捕らえさせていただきました。捕らえる際、少々強引なやり方をしたのでドン・ボヴィーノに謝罪しようと思った訳です」 綱吉はそこで言葉を切ると、ドン・ボヴィーノに真っ直ぐな視線を向けて静かに言葉を続ける。 「彼は貴方にとって大切な存在ですから」 綱吉が言った『彼』という言葉。 これはランボの事を指していた。 そう、綱吉がドン・ボヴィーノを訪ねた理由は、コルヴォの一件にランボを意図的に巻き込んだからである。ボンゴレが介入するにはランボが巻き込まれる必要があったとはいえ、ランボを大切に思うドン・ボヴィーノからすれば決して喜ばしい事ではない。 今回は全てが上手く行きランボも無事に帰ってきたが、それは決して保障されていたものではないのだ。 綱吉はそれを思い、ドン・ボヴィーノに謝罪する為に訪ねたのである。 本来、ボンゴレとボヴィーノではボンゴレの方が格式も規模も全てが上位にある為、綱吉が謝罪する必要はないのだが、綱吉はボヴィーノを傘下に置いたのではなく同盟を結んだ関係である事を重視しているのだ。 綱吉にとって同盟とは、多少の上下関係はあっても基本的に対等である事を指す為、同盟と傘下の差別化を見せる為にも必要であれば謝罪行為など厭わなかった。 そして何より上位の者からの素直な謝罪は、下位の者に感銘を与えて同盟関係を強化する事も可能なのである。 「ドン・ボヴィーノ、私どもの介入が強引であった事を許していただきたい」 綱吉はそう言って、深々と頭を下げる。 こうした綱吉の謝罪に、ドン・ボヴィーノは「頭を上げてください」と少し慌てたように綱吉の頭を上げさせた。 「謝罪は必要ありません、今回の件は我々の認識が甘かった点がある。それにランボについても謝る必要はありませんよ」 ドン・ボヴィーノはそう言うと、穏やかな表情で目を細める。 「ランボもマフィアですし、もう十五歳ですからね。自分の行動に責任を持たなくてはいけない」 ドン・ボヴィーノの言葉は、ランボに対してまるで本当の子供に対するような言葉だった。 ランボを心から大切に思い、慈しむ言葉。 些か過保護過ぎの面もあるが、それでも感じられるのは『ただ大切なのだ』とう事だけだ。 ドン・ボヴィーノは綱吉の隣に座っているリボーンに視線を向け、好々爺のような優しい笑みを浮かべる。 「ランボを助けたのはボンゴレではなく、ランボの夫だと聞いている。ランボは不束者で半人前だが大事にしてやってくれ」 それはまさに娘を嫁に出した親の言葉だ。 リボーンは、ドン・ボヴィーノの言葉に無表情のままでいたが、内心では苦虫を噛み潰していた。 思い出すのは、ホヴィーノ屋敷を訪れる前の車上の会話である。 綱吉はドン・ボヴィーノをリボーンの義父だと言ったが、まさにその状態である事をリボーンは思い知ったのだ。 リボーンは自分がランボと結婚した事は認めるが、それはあくまで建前上である。建前は守ってやらなくもないが、本当の意味での夫婦になるなど冗談ではなかった。 リボーンの中で、ランボに対して理解出来ない想いを抱いている事は認めるが、その想いは夫婦の建前を守ってやっても良いという義理のようなものだとリボーンは思っているのだ。 それにリボーンにとって、ランボは仕事上でもプライベート上でも明らかに自分の足手纏いになるので、本当のパートナーになる事は有り得ない。 だが、こうしたリボーンの本音を置いて、綱吉とドン・ボヴィーノは若い夫婦の事で盛り上がり始めてしまった。二人からすれば、十代の若夫婦は目が離せないのと同時に、話の種も尽きないのだろう。 二人はリボーンが側にいる事を知りながら、「最近の若い夫婦は……」とか「でもランボは結構大和撫子タイプだ」とか「大和撫子は男の夢だ」などと盛り上がっている。 リボーンはそれを横で聞きながら頭を痛めるが、綱吉とドン・ボヴィーノの若夫婦談義はしばらく続いたのだった。 綱吉達がボヴィーノ屋敷に赴いてから半日後。 若夫婦談義で盛り上がった綱吉と懐かしい面々に会えたランボは上機嫌に、そして若夫婦について側で延々と聞かされたリボーンは不機嫌に屋敷を出た。 三人は車上の人になり、ボンゴレへと帰っていく。 今回のボヴィーノ訪問は綱吉とランボにとって有意義なものになり、綱吉などは終始満面の笑みを浮かべていた。 「リボーンとランボに、ドン・ボヴィーノとオレからプレゼントがあるんだよ」 後部座席に座っていた綱吉が、上機嫌のまま懐から二枚のチケットを取り出した。 「オレとリボーンにですか?」 助手席に座っていたランボが振り向き、綱吉を見て不思議そうに首を傾げる。 綱吉とドン・ボヴィーノが、リボーンとランボの事を何かと気にしている事は分かっていたが、プレゼントを用意されているとは思わなかったのだ。 「そうだよ。二人とも結婚してから新婚旅行に行ってなかっただろ? だからそれのチケット」 「し、新婚旅行!?」 突然の新婚旅行という言葉にランボは驚くが、綱吉は構わずに「当然だよ」と笑顔でチケットを手渡した。 チケットを受け取ったランボは「新婚旅行……」と呆然なってしまう。だが。 「あっ、マフィアランドだ!」 だが、チケットに記されているリゾート地に気が付くと、ランボはパッと表情を輝かせた。 マフィアランドとは、殺伐とした世界を生きるマフィア達の憩いの地であり、唯一気を抜いて楽しめるマフィアの為のリゾート地である。 ランボは幼少の頃に綱吉達と一緒にマフィアランドへ行った事があり、そこでの思い出は楽しい事ばかりだった。 「そう、マフィアランドだよ。ランボ、そういうところ好きだろ? 楽しんでおいで」 綱吉はそう言ってランボに笑顔を向けると、次はリボーンを振り返る。 「リボーンのチケットだよ。二人で行ってきてね」 問答無用でリボーンにチケットを握らせる綱吉。 リボーンはチケットを受け取ると、速攻で破り捨ててやろうと思った。 だが、気が付く。 渡されたチケットに、一枚のメモが挟まっていたのだ。 リボーンはそのメモを読むと、それをクシャリと握りつぶす。 このメモは、新婚旅行など行きたくないというリボーンの退路を断つものだったのだ。 リボーンは不機嫌な表情のまま、凍てつくような眼差しで綱吉を睨み据える。 「新婚旅行ってのが気に入らねぇ」 低く地を這うようなリボーンの声色。 その声色には怒気が含まれ、普通の者であれば背筋が震え上がるほどのものである。 「分かってる。だからこのメモつけたんじゃない」 しかし、綱吉はリボーンに睨まれても笑顔を崩す事はなかった。 「頼んだからね、リボーン」 綱吉は決定事項のようにそう言うと、強引に新婚旅行を決行させるのだった。 同人に続く という訳で新婚旅行の話です。 マフィアランドですよ。なのでコロネロとかも出てきます。 マフィアランドでは、ランボに頑張ってもらいますよ。トラブルに巻き込まれたり、起こしたり、また巻き込まれたり……。ヘタレっぷり発揮です。 でも最終的にリボランハッピーエンディングですよ。 発行予定日は6月のCC東京です。詳細が決まり次第またいろいろUPしてきます。 |
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