序章・置いてきた心



 ――――十年前。
 赤ん坊でありながらマフィア界最強の名を冠するリボーンは、次期ボンゴレ十代目の家庭教師として日本に渡っていた。
 そして、そんなリボーンと同様に五歳という幼い年齢でありながら日本に渡った男の子がいた。
 その男の子の名前はランボ。
 ランボはボヴィーノファミリーのヒットマンとして、リボーンを倒すためにイタリアから日本に渡ったのだ。
 だが倒すという目標がありながら、ランボの日常はそれに反してとても子供らしく歳相応のものだった。
 同年代の子供とたくさん遊び、楽しい事があればたくさん笑い、悲しい事や辛い事があればたくさん泣いた。
 そんな中、それでもリボーンを追い駆ける事を忘れないランボは「リボーン死(ち)ねー!」とリボーンに突っかかっていたのだ。
 しかしながらリボーンとの実力差は誰の目にも明らかなもので、ランボは攻撃を仕掛けるたびに返り討ちにあって泣かされていたのである。
「うわああぁぁぁん! リボーンのバカ〜!」
 そして今も、部屋で寛いでいたリボーンに襲撃を仕掛けたランボは、見事な返り討ちに遭って泣いていた。
 ランボは盛大に泣き喚くともじゃもじゃ頭の中から十年バズーカを取り出し、いつものように十年後の自分を呼び出そうとする。
 現在の自分がリボーンに勝てないなら、十年後の自分ならどうにかなると思っているのだ。だがその思考は安易なもので、十年後を呼び出しても毎回泣かされて終わるのだ。
「リボーンなんか、十年後のオレっちにやっつけられちゃえ!」
 ランボは宣言するようにそう言うと、バズーカの砲口を自身に向けて紐で結んだ引鉄を「えいっ」と引いてみせる。
 そして。
 ドォォン!
 室内にバズーカの爆発音が響き、それと同時に白い爆煙がもくもくと広がる。
 少しして爆煙が晴れると、その中から十年後から来た十五歳のランボが姿を見せた。
 リボーンは側に現われた十五歳のランボの気配を感じながらも、そちらに視線を向ける事はなく無視を続ける。
 このリボーンの反応はいつもと変わらぬもので、十五歳ランボも五歳ランボと同様にいつもリボーンに無視されているのだ。
 普段ならここで、十五歳のランボは「やれやれ……」などと憂いを演出する雰囲気を振り撒くが、それでも無視を続けるリボーンに「無視するなー!」と攻撃を仕掛けてくるのである。
 だが。

「――――オレを見つけて!」

 だが、不意に発せられたのは攻撃ではなく、予想外の言葉だった。
 今回のランボは攻撃を仕掛ける事もなく、それどころか憂いを装った普段の様子すらもなかったのだ。
 ただ、ランボは「オレを見つけて!」と必死な声色でそう言った。
 そうした様子から不審を感じたリボーンは、ようやくランボに視線を向ける。
 リボーンはランボの姿を見ると僅かに眉を顰めた。
 今のランボは、今まで十年前に呼び出されてきたランボとは明らかに様子が違っていたのだ。
 ランボの着衣は砂埃に薄汚れ、靴すらも履いていない素足は血が滲むほど傷付いている。乱れた着衣の隙間から覗く素肌には、打撲痕のような青痣が広がっているのが見て取れた。そして何より、今のランボは濃い草木の匂いを纏っている。それは故意的に纏える匂いではなく、草木の茂る場所に長時間居てはじめて纏えるものだ。
 こういったランボの姿は、誰の目にも尋常でないものだった。
 しかし、リボーンはそんなランボに内心で不審を覚えながらも、表面上は特に気にした様子を見せる事はなかった。
 リボーンにとって、ランボに対する認識は格下の取るに足らない存在なのだ。それ故に、例えどんなに不審を覚える姿を見せていても、深く関わりたいと思わなかったのである。
 そしてこうしたリボーンの態度はランボも承知しているものだったが、今のランボは無反応なリボーンに僅かに目を細める。
 細められたランボの目には涙が溢れ、それが砂埃で汚れる頬に一線を描くが、やはりリボーンが気に留める事はなかった。
 だが、無反応を決め込むリボーンを前にしても、ランボは尚も言葉を続ける。

「お願い、リボーンがオレを見つけてっ。忘れたままのオレを……許さないで!」

 これは一方的な言葉だ。
 十年後の世界で何が起こっているのか知らないが、現在のリボーンには関係無い事である。
 そして何より、このランボの言葉は現在のリボーンに向かって紡がれた言葉でない事は直ぐに分かった。
 涙に濡れたランボの瞳はリボーンを見つめているが、眼差しは現在のリボーンを通り越している。
 言葉はリボーンに向けられたものだが、正しくは自分ではないリボーンに向けられたものだ。
 それを察したリボーンは、内心で「面倒臭ぇ」と毒吐きながら目を据わらせた。
 十年後の揉め事など過去の自分には煩わしいものである。しかもそれが格下のランボから齎されたものなら尚更だった。
「煩せぇぞ。俺は格下は相手にしねぇんだ」
 リボーンはランボに視線を向けたまま吐き捨てるようにそう言った。
 リボーンの言葉は普段からランボに返している言葉で、ランボに対しては日常になっている言葉である。
 そしてその日常でいうならば、この言葉の後は必ずランボが「格下って言うな!」と突っかかってくるのだ。それなのに。
「……そうだね。ごめん……」
 それなのに、ランボから返ってきた反応は今までのものとは違うものだった。
 ランボは泣き笑いのような表情を浮かべ、「ごめん……」と繰り返したのだ。
 それは今まで見た事がないランボの表情で、リボーンは違和感を覚える。
 しかしその違和感の正体を暴く前に十年バズーカの効力は切れ、十年後のランボは爆音と爆煙の中に姿を消したのだった。
 リボーンは、十年後に戻ったランボが気にならないといえば嘘になるが、それでもこの出来事を直ぐに記憶の隅に片付ける。
 十年後の未来で何が起こっているのか一歳のリボーンは分からない。又、未来を不用意に知りたいとも思わない。それが例え、違和感と不審を覚えるものであったとしてもだ。
 だから、現在のリボーンがこの出来事を気に留める事はなかったのである。




千年の孤独


   第一章・歯車が軋む音



 ボンゴレ屋敷にある綱吉の執務室。
 この場所に、ランボはボンゴレ十代目である沢田綱吉に呼び出されていた。
「バラノフファミリー……?」
 ランボは聞き慣れないファミリーの名前に疑問を浮かべる。
 綱吉に呼び出されたランボは、そこで呼び出された用件を聞いたのだ。
 用件とは、最近勢力を伸ばし始めた北欧の新興ファミリーが欧州に触手を伸ばし始めたというものである。
 そのファミリーこそが、ランボが先ほど疑問を浮かべたバラノフファミリーだった。
 ボンゴレはイタリアを本拠地としながらも、欧州で指折りの巨大ファミリーである。そんなボンゴレファミリーが新興マフィアなどに欧州を荒らされる事を良しとする筈がないのだ。
 又、欧州で勢力を伸ばそうとする新興マフィアがボンゴレの存在を無視できる筈もなく、どんな形であれ必ず衝突すると予想されるのである。
 それを察知した綱吉は、守護者をはじめとしたボンゴレ幹部達に警戒を強めるように命じているのだ。
 その為、ボヴィーノファミリーに属しながらボンゴレリングの守護者でもあるランボにも、警戒を強めるように言い渡されたのである。
 だが、ランボはバラノフという聞き慣れない名前に首を傾げた。
 バラノフという名前は欧州系の名前ではなく北欧系の名前であり、ランボにとって聞き慣れないものだったのだ。
 そんなランボの疑問を察した綱吉は、「バラノフファミリーはロシアン・マフィアの一つだよ」と付け足してくれる。
「……ロシアン・マフィアですか?」
 ロシアン・マフィアとはロシア系犯罪組織を総じてそう呼ばれる事が多かった。
 そもそもロシアン・マフィアは一部の例外を除いて、ソビエト連邦末期の混乱期に発生活発化したものが数多く、それらが新興マフィアとして組織化したのである。中には古い歴史を持つファミリーもあるが、現在のロシア裏社会で活発な活動を起こすのは新興マフィアとされるファミリーで多かった。
「バラノフファミリーはロシアン・マフィアの一つでね。ロシア内で勢力を拡大した新興マフィアなんだけど、それが最近こっちの方まで手を伸ばしてきたんだよ。あんまり騒がしくするようなら、こっちも相応の対応をしなくちゃならなくなる」
 そう言った綱吉は普段と変わらない穏やかな表情をしているが、「ロシア内だけで留まっていれば良かったのにね」と苦笑混じりに言葉を続ける。
 欧州マフィアの大多数のファミリーが格式と掟を重んじている為、無秩序な新興マフィアの存在は歓迎していなかった。
 それはボンゴレ十代目である綱吉も例外ではなく、元々は日本の一般市民として育った綱吉であるが、ボンゴレ十代目を襲名して数年が経過した今、新興マフィアを野放しにする危険性を熟知しているのだ。その為、今回の事態に警戒を促したのである。
 綱吉は「面倒な事になる前に国に帰ってくれればいいけど」と愚痴のように漏らす。
 イタリアに触手を伸ばされた際、そこを本拠地とするボンゴレは本格的に対処に動かねばならなくなるのだ。必要以上の争いを嫌う綱吉は、それを杞憂しているのである。
 だが、そんな綱吉の杞憂を聞きながらも、ランボの返答は「そうなんですか……」と少し戸惑った様子で返された。
「それは大変ですね。オレも気を付けます」
 気を付けると言いながらも、何処か頼りなさを持っている。
 しかし、それはランボには仕方がない事なのである。
 ランボは幼児期の頃から裏社会に属しているが、マフィアの構成員として未だに半人前なのである。未熟なランボが欧州外のマフィアと接触する機会は少なく、又、難易度の高い任務に赴く事もほとんど無かったのだ。
 今のランボは、十五歳という年齢にしてボンゴレリングの守護者という肩書きだけは立派だが、実力や実績の方はお世辞にも肩書きに追いついているとは言えなかった。それでも、最近になってようやく実力の方は伸び始めていたが、まだ世間知らずな幼さが抜け切らないのだ。
 そんなランボが突然ロシアン・マフィアという名称を聞かされても、身近な事として感じられないのは仕方がない事といえるだろう。
 それを分かっている綱吉も、ランボに対しては「警戒を強めるように」という簡略化した説明しかしなかった。
 綱吉はランボを甘く見ている訳ではなかったが、ランボが五歳の頃から面倒を見ている事もあって、まるで歳の離れた弟のように思っているのだ。しかも、手のかかる子供ほど可愛いという言葉通り、綱吉は無意識のうちについついランボを甘やかしてしまう事もあった。
 綱吉としても、いつまでもランボを子供扱いしてはいけないと分かっているが、幼い頃の印象が強過ぎてどうしても他の守護者達とは違った扱いをしてしまう事が多い。十五歳になったランボがどれだけ大人ぶった振る舞いをしても、やっぱり子供の振る舞いのように見えてしまうのである。
 だが、こうして甘やかしてしまうのは、ランボ自身のせいでもあると綱吉は思っていた。
 今のランボは少年期特有の幼さを残しながらも、徐々に大人へと成長する過程の年齢なのである。
 大人になりきらない体躯や容貌は独特の雰囲気を感じさせ、目が離せない危うさがあるものだ。だが、ランボの場合はそれだけではなかったのだ。
 ランボの容貌は、まるでランボ自身の甘ったれた性格を具現化したように甘く整ったもので、その中で最も特徴的なのは長い睫毛に縁取られた翡翠色の瞳だろう。
 濡れたような艶やかさを持つ翡翠色の瞳は滑らかな乳白色の素肌に映え、垂れた目尻と相俟って歳不相応の色香を感じさせる事がある。しかも、ふっくらとした赤い唇からは庇護欲を刺激するような甘ったれた言葉が紡がれる事が多く、それが相乗効果となって、何とも表現し難い艶やかな雰囲気を纏う事があったのだ。
 それらの雰囲気は無意識に成されるもので、その無知ともいえる無意識さが性別や年齢の垣根を越えた魅力となっていた。
 又、成長過程にある体躯は縦にばかり育ち、全体的に細身で華奢な印象を与えやすい事が一層拍車をかけていたのだ。
 しかし、ランボの性格はそれらの歳不相応な色香を裏切るものだった。性格は歳不相応に不甲斐無いもので、マフィアとしての実力や経験も、大人になりきれない甘ったれた性格も、全てが歯痒いほどに頼りないものである。
 本来、歳不相応の頼りなさは周囲の者達に苛立ちを感じさせるものであったが、ランボの場合は容貌や言動によって反感から免れていた。
 甘やかして欲しい、庇護して欲しい、と無意識に乞うようなランボの雰囲気や振る舞いは、庇護欲と同時に加虐心を煽るものだが、ランボを幼い頃から知っている者達にとって庇護欲ばかりを刺激されるものだったのである。
 だから今回のバラノフファミリーの件では、ランボが関わるにはまだ早いと思われたが、守護者として無関係でいられない為、綱吉は必要な事だけをランボの耳に入れておいたのだ。幸いにも現在の状況は守護者を動かすほどの事態に陥っていない事もあり、警戒を怠らなければ問題無いと思われた。
 そういった事から綱吉はランボに簡略化した説明を行い、それが終われば、久しぶりに会えたランボを純粋に喜んで歓迎する。
「ランボ、よかったらケーキでも食べていく? ランボが喜ぶと思って取り寄せたんだ」
 ボンゴレ十代目という役職はなかなか多忙なもので、いくらランボが雷の守護者でも仕事以外でゆっくり顔を合わせる事が難しい。その為、綱吉は今回の呼び出しのついでにランボとお茶でもしようかと思ったのだ。
 そして、そんな綱吉の誘いをランボが断わる筈がなく、ランボは「是非いただきます!」とパッと表情を輝かせた。
 こうしたランボの様子は、先ほどのロシアン・マフィアの話をさっそく頭の隅に追いやってしまったものである。ランボにとってロシアン・マフィアは身近に感じられないものだが、ケーキはとても身近なものなのだ。
「有り難うございます!」
 笑顔で礼を言うランボに、綱吉も「どうぞ」とランボに座るように進める。
 ランボは促されるままソファに腰を下ろそうとしたが、ふと、「そういえば」と口を開いた。
「そういえば、リボーンの姿が見えないようですが……」
 ランボの口から何気なく出たリボーンの名前。
 リボーンは綱吉の元家庭教師であり、現在はボンゴレ幹部にしてヒットマンである。そんなリボーンは綱吉の護衛も兼任している事もあって、外で仕事が無い時は綱吉の執務室で寛いでいる事が多かったのだ。
 その為、姿が見えないリボーンにランボは「仕事ですか?」と疑問を浮かべた。
 だが、綱吉から返ったのは意外といえば意外な返事である。
「ああ、リボーンなら自分の部屋にいると思うよ」
 綱吉はそう言うと、「本当は愛人の一人と約束があったらしいんだけど帰ってきたんだ。機嫌が悪かったし、揉めたのかな?」と苦笑混じりに言葉を続けた。
「リボーンが愛人と揉めるなんて珍しいですね」
「本当だよね。リボーンは赤ん坊の頃から愛人を囲っているだけあって、女性だけには優しいから」
 そう言った綱吉に、ランボも「そうですよね」と同意する。
 そう、リボーンは赤ん坊の頃から愛人を囲っている事もあり、『女性には優しく』という意識を幼い頃から持っているのだ。
 それを知っている綱吉とランボは、女性と揉めたというリボーンに意外そうな面持ちになった。
 しかし、ランボは意外に思いながらも、直ぐに「でも、リボーンの事だから、起こるべくして起こった事かもしれませんよ?」と面白がるような軽い口調で言葉を続ける。
「リボーンって自分勝手ですから、その本性がバレたのかもしれませんよ。そうじゃないなら、リボーンの女性遍歴に相手の女性が嫉妬して刃傷沙汰とか」
 冗談っぽくそう言ったランボに、綱吉は「勝手に邪推しちゃ悪いよ」と言いながらもクスクスと笑い出す。
 こうして二人は、本人がいないうちに……とリボーンの話題で軽く盛り上がったが、少ししてランボが立ち上がった。
「リボーンも屋敷にいるなら呼んできます。せっかくケーキを用意してくださったんですし、人数が多いほうが美味しいですから」
「そうだね、宜しく頼むよ。でも機嫌悪かったし、素直に来てくれるかな……?」
 気紛れで傍若無人なリボーンの性格を熟知している綱吉は心配気にそう言ったが、ランボは気にした様子も見せずに笑顔をみせる。
「それは分かりませんが、でも大丈夫だと思います」
 根拠も無くそう言ったランボに、綱吉は「大丈夫って?」と問う。
 すると、その問いにランボは何とも嬉しそうに表情を綻ばせた。
「最近、十回に一回くらいはオレの話を聞いてくれるようになってきたんです!」
 黙って聞いているだけじゃなくて返事も返してくれるんですよ! と、ランボは明るい笑顔を浮かべてそう言った。
 そんなランボの答えに、綱吉は「十回に一回って……」と思わず苦笑を浮かべてしまうが、今のランボに水を差すような無粋な突っ込みは出来なかった。
 今のランボはとても嬉しそうな笑顔を浮かべていたのだ。
 笑顔を浮かべる理由は「リボーンに無視されなくなった」という他愛無いものだが、それを喜ぶランボの笑顔は心からのもので、無邪気なそれは嬉しいという感情を真っ直ぐに伝えてくる。
 この素直な笑顔は、水を差すことを躊躇わせるもので、ランボを幼い頃から面倒見てきた綱吉ならば尚更だった。
「それは良かったね。だったらお願いするよ」
「はいっ。それじゃあ行ってきますね!」
 ランボは明るい口調で返事をすると、笑顔のまま執務室を出たのだった。
 綱吉は、こうして執務室を出て行くランボを「頼んだよ」と笑顔で見送ったが、ランボが出て行くと笑顔が苦笑に変わっていく。
「泣いて帰ってくるんだろうな……」
 ランボが泣いて帰ってくるだろう事は、簡単に予想できてしまう事だった。例えリボーンが誘いに乗って一緒に執務室に戻ってきたとしても、ランボが泣いている事は間違いないだろう。
 二人の力関係など十年前から理解している綱吉は、「ランボにはケーキを少し大きめに切り分けてあげよう」と慰める準備をするのだった。




 執務室を出たランボは、ボンゴレ屋敷にあるリボーンの私室に向かって歩いていた。
 リボーンの私室に向かうランボの足取りは軽く、目指す部屋には迷い無く向かっていく。
 ランボにとって、ボンゴレ屋敷にあるリボーンの私室は通い慣れたものなのである。それというのも、リボーンはイタリア国内をはじめ国外にも数多く私邸を持っているが、仕事の関係上ボンゴレ屋敷内の私室で過ごす事が多いのだ。
 という事は、十年前からリボーンを追い駆け続けているランボも此処に出現する事が多いという事だった。
 そう、ランボは十年以上前からリボーンを追い駆け続けているのだ。その為、このボンゴレ屋敷にあるリボーンの私室にも『打倒リボーン』を掲げて度々侵入していたのである。
 だが、そういった関係が十年以上続きながらも、今まではまったく相手にされずに無視され続けてきた。どんなに頑張っても無視され続けるという事はランボにとって辛い事だったが、最近それが少し変わってきたのだ。
 変わってきたというのは、リボーンの態度にあった。
 今まではランボがどんなに騒がしく纏わり付いても相手にされず、酷い時などは何倍もの仕打ちで反撃されていたのである。それなのに、最近は少しだけ相手をしてくれるようになった。
 それはリボーンが機嫌の良い時に限定されたものだが、それでも視線を交わし、言葉を交わし、意志を交わしてくれるようになったのだ。
 その為、今は襲撃以外の時もリボーンの私室を訪ねる時があるくらいなのである。
 これは第三者から見れば他愛無い些細な変化かもしれないが、ランボにとっては大きな変化だった。
 十年以上も相手にされていなかったランボにとって、リボーンに認められたような気にさせる事だったのだ。
 そう、リボーンから認められた。
 それはまるで友情に近い感覚を覚えさせるもので、ランボはそれを思うと気恥ずかしくも嬉しかった。
 もしリボーンがランボのこの気持ちを知れば、決して認めようとせず、返って馬鹿にされてしまうだろうが、それでもランボは希望のようなものを抱いてしまうのだ。
 ランボとしても、この思いは決して表立って形にしようと思わない。
 だが、内心では変わり始めたリボーンとの関係が何だか嬉しい。はっきりとした形でリボーンと友人関係を結びたい訳ではないが、それでも嬉しいものは嬉しいのだ。
 ランボは、この通い慣れた廊下を上機嫌に進んでいく。
 そしてリボーンの私室の前までくると扉をノックし、返事が返ってくる前に「リボーン、入るからね」と軽い挨拶とともに扉を開けた。
「リボーン、いるんでしょ?」
 そう言ってランボが私室に入れば、リボーンは部屋のソファにゆったりと腰掛けて新聞を読んでいた。
「いるんなら返事くらいしてよ」
 ランボはそう言うとリボーンの前に歩いていき、「ねぇ、聞いてる?」と広げられた新聞の上からリボーンを覗き込む。
 そんなランボにリボーンはちらりと視線を向けたが、「ウゼェから出てけ」と直ぐに視線を新聞に戻してしまった。
 こうしたリボーンの態度は不遜なもので、確かに今は機嫌が悪いようである。
 だが、ランボがこれしきの事で挫ける事はなかった。
 今のリボーンは機嫌が悪いようだが、ランボから見ればそれ程でもないように思えたのである。
 そう思えた理由として、リボーンはランボに視線を向けてくれた。何より、一言でも言葉を返してくれた。十年前からリボーンという男を知っているランボにとって、理由はそれだけで充分だったのだ。
 そもそも、今のリボーンの不機嫌な理由が『愛人と揉めたから』というものであれば、リボーンが本当に機嫌悪くなる事はないのである。確かにリボーンは愛人を大切にしているが、それでも彼女達の存在がリボーンの感情を取り乱させる事は無い。
 そう、リボーンにとって愛人とは特別な存在では無いと、ランボは長い付き合いの中で知っていた。
 リボーンが唯一としているのはファミリーであり、愛人達が本当の意味でリボーンの感情を動かせることはないのである。
 それを知っているランボは、今のリボーンがそれほど不機嫌では無いと察し、普段と同じ調子で振る舞う。
「出てけって……、オレはリボーンを呼びに来ただけだよ」
 ランボはそう言ってリボーンの隣に腰を下ろし、リボーンの横顔を見つめる。
 こうしたランボの視線にリボーンは僅かに表情を顰めて見せたが、そんなリボーンの表情など慣れているランボが気にする事はない。
 ランボは、自分を無視して新聞を読み続けるリボーンをじっと見つめた。
 新聞の文面に視線を向けるリボーンの横顔は端正なもので、その容貌は端麗という言葉が相応しいものである。闇夜を思わせる鋭く冷たい瞳や、形の良い薄い唇など、それらは無機質な彫刻のように計算された造形のようだったのだ。そして体格の方も、年上であるランボよりも精悍さを感じさせるような強靭なもので、鍛えられたそれは超一流ヒットマンの肩書きに相応しいものだった。
 今のリボーンとランボは辛うじて同じくらいの身長だが、後数年もすれば確実にリボーンはランボの身長を抜いてしまうだろう。
 ランボはその事を同じ男として悔しく思うが、リボーンとの違いは幼い頃から散々見せつけられている事もあって、今更表立って悔しがる事もしたくなかった。
 だが、ランボがそれ程悔しがっていない理由はもう一つあった。
 それは、誇らしいという感情である。
 ランボは自分と違って、特別視される事が多いリボーンの存在が誇らしかったのだ。
 幼い頃は悔しいと思っていたが、成長するに連れてリボーンとの距離が徐々に縮まり、気が付ければリボーンに向ける感情が変わっていた。
 幼い頃と変わらずに対抗心も持っているが、それと同時に自分の身近にリボーンがいるという事が誇らしくなっていった。
 それは身近に力有る者がいるという優越感に似ているかもしれない。
 だが、優越感といってもランボが抱くそれは決して俗的なものではなく、身内が称賛されれば自分の事のように喜べるというものである。
 そう、ランボの優越感とは、世間的に特別な位置付けをされるリボーンの側に、自分が十年以上もいられたという事だった。
 しかも今は、幼い頃のように無視されるだけでなく、リボーンの機嫌が良い時は相手までしてくれるのだ。ランボはそれが嬉しくてしょうがない。
「リボーン、十代目が呼んでるよ。一緒にケーキ食べない?」
「ケーキくらいでわざわざ呼びにくるな。俺はどっかの三流と違って忙しいんだ」
 ランボの誘いに、リボーンは新聞に視線を向けたまま憎まれ口を返す。
 ランボは、リボーンが自分を振り向いてくれない事にムッとしたが、内心では返事が返ってきた事を少し嬉しいと思っていた。
 本当に機嫌が悪い時は返事すら返ってこない為、返事があるだけで充分なのだ。
 だって、何気ない会話を交わせる事を嬉しく思い、軽口を交わせた時など最高の気分になるのだ。
「三流は関係無いろ?!」
 ランボはムッとした表情でそう言い返し、「三流って言うな!」と怒ってみせる。ランボは内心の嬉しさを隠したまま、表面上はリボーンを不機嫌に睨みつけたのだ。
 こうした時間が二人の間にしばらく流れたが、不意に、ランボは何かを思い出したような表情になった。
 そんなランボの表情はイタズラを思いついた子供のように輝き、口元にはニヤリとした笑みが刻まれている。
「リボーン。忙しいって、嘘ばっかり」
 ランボは面白がるような口調でそう言うと、リボーンと新聞の隙間に横から割り込んだ。新聞の前に躍り出た格好のランボは、当然リボーンに睨まれるが今更怯えたりしない。
「十代目から話は聞いてるよ。愛人と揉めたんだって? 珍しいよね、リボーンがそんなヘマするなんて」
 冗談交じりのランボの言葉に、リボーンはますます目を据わらせる。
 リボーンは愛人と揉めた事に対しては何とも思っていないが、それをランボにからかわれているという状況が気に入らないのだ。
 ランボ如き格下に面白がられるなど、リボーンのプライドが許さない。
 リボーンは「黙らされてぇのか」とランボに吐き捨て、それを実行に移してやろうかと読んでいた新聞を畳む。
 だが今回のリボーンの実力行使は、いつもとは少し違っていた。
 リボーンは新聞を手前のテーブルに投げ置くと、自分の顔を覗き込むランボに目を細めてみせる。
 そんなリボーンの口元には薄い笑みが刻まれ、それは先ほどの不機嫌さを微塵も感じさせないものだ。そう、例えるなら何か碌でも無い事を企んでいる時の表情に似ている。
「俺が揉めた女がどんな女だったか教えてやろうか?」
「え……っ、な、なんだよ、急に……っ」
 突然雰囲気が変わったリボーンに、ランボは表情を引き攣らせた。
 ランボは、長年の経験からリボーンがこういった雰囲気を漂わせる時は、自分にとって良くない事が起こる前兆だと分かっているのだ。
 それに気付いたランボは逃げ腰になり、「リボーンは忙しいみたいだし、オレは退散するよっ」と慌てて逃げ出そうとする。
 しかし、逃げるランボをリボーンが許すはずが無かった。
「遠慮するな」
 リボーンはそう言うと、逃げようとしたランボの腕を強引に掴み、そのまま勢いを利用してソファの上に引き倒したのだ。
 ソファに仰向けに倒されたランボは、あまりに突然の事に呆然としてしまう。
「リ、リボーン……?」
 恐る恐るリボーンを見上げたランボ。
 今の二人の体勢は、ソファに仰向けになっているランボにリボーンが覆い被さっているものなのだ。
 ランボは、眼前に迫るリボーンの端正な容貌に息を飲んだ。
 リボーンとこれほど接近したのは初めてで、内心で少し混乱してしまう。
「ど、どいてよ……っ」
 焦ったランボは自分に覆い被さるリボーンから逃れようとするが、リボーンはそれを無視し、口元に薄い笑みを刻んだまま言葉を紡ぐ。
「俺と揉めた女は、俺の予想以上に頭が軽くてな。それで少し苛ついたんだ。まあ、頭の軽さはアホ牛の方が上だがな。――――だから」
 リボーンはそこで言葉を切ると、鋭い眼差しに鈍い光を宿す。
「だから、お前が代わりをするか?」
 ゆっくりと続けられたリボーンの言葉。
 ランボは、この言葉の意味が分からなかった。
 リボーンが何を言っているのか理解できない。否、理解しようとする事を思考が拒否している。
「い、意味が分からないんだけど……っ」
 ランボは内心の焦りを必死で隠し、軽い調子を装ってそう言った。
 そう、ランボは今の状況を軽く流してしまいたかったのだ。
 他愛無い軽口を交わすように、他愛無い戯れのように、これからも今までのような時間が続くように、軽く流してしまいたかった。しかし。
「そのままの意味だ」
 しかし、リボーンからの返事はランボが軽く流したい状況を肯定しようとするものだった。
「そのままの意味って……。そんなの、冗談だよね……?」
 ランボは状況を誤魔化すような声色でそう言いながらも、表情には僅かに怯えを滲ませている。
 リボーンとは十年来の付き合いだが、こんな状況に雪崩れ込んだ事など一度も無いのだ。
 今ならまだ性質の悪い冗談で済ませる事ができる。
 ランボはそれを願い、「……冗談だよね?」と言葉を繰り返した。
 そんなランボの必死な願いを前に、リボーンはランボを組み敷いたままゆっくりと口を開く。
「ああ、冗談だ」
 リボーンは今の状況を冗談という言葉で返した。
 それはランボの願いが叶った言葉である。
 だが、その言葉を聞いてもランボの表情に喜色が浮かぶ事はなかった。
 今、リボーンは笑っているのだ。表情だけを見れば本当に戯れであるかのように笑っている。
 楽しげに目元を細め、口元に笑みを刻み、面白い事を目にした時のように笑っている。
 それなのに、行為は言葉を裏切っていた。
「い、嫌だっ。なんか違うよ……っ」
 ランボは混乱したようにそう言うと、怯えたように後ずさる。
 こんな性質の悪い冗談は嫌だ。
 だって、ランボが今まで養った常識では、友情に近い間柄には色欲など有り得ない。
 それはリボーンと自分なら尚更で、今まで予想もしていなかった事だった。
 この予想外の展開に、ランボは恐怖のような感情を抱く。
 現状が怖い。何より、リボーンの意図が分からないのが怖い。
 リボーンの事だから、冗談で済まされる一歩手前で「騙されてんじゃねぇぞ」と冗談で流してくれるのかもしれない。それならば良いが、でも今、リボーンからは縋れるような希望が一切感じられないのだ。
 ランボは、そんなリボーンの様子に背筋が震撼する。
「やだ……!」
 ランボは叫ぶような声を上げ、自分に覆い被さるリボーンを押し退けて逃げ出そうとした。
 だが、逃げようとしたランボの身体は容易く捕らえられ、またリボーンの下へと引き戻される。
「こんなの変だ! リボーン、おかしいよ?!」
 ランボは「どうしたんだよ!」と声を荒げ、腕を突っぱねて必死で抵抗を示す。
 しかし抗うランボの両腕は、リボーンによって頭上で押さえつけられた。
 そう、これは拘束する行為である。
 軽い冗談として流したい一縷の望みを砕き、ランボが理想とした関係を崩す行為である。
「……嘘でしょ?」
 ランボは愕然と呟いた。
 その呟きは信じ難い現状を憂えるものだが、リボーンはそれを嘲笑う。
 リボーンは「代わりだと言っただろ」と低い声色で言うと、ゆっくりとした動作でランボの首筋に唇を寄せた。
「リボーン……?」
 ランボの掠れた声色。
 その声色は困惑と戸惑いと、微かな怯えに彩られている。
 リボーンの顔がよく見えない。
 冗談なのか本気なのか、それともどちらでもないのか、判断することが叶わない。
 だが、首筋に寄せられた感触は確かにリボーンの唇で、それはランボを驚愕させるには充分なものだった。
「や、やだ……っ、ちょっとリボーン……!」
 ランボは逃げようと身を捩り、リボーンに止めてくれと訴える。
「ねぇ、嘘でしょ……?!」
 冗談にしてしまいたい、その一心でランボは問うた。
 今ならまだ冗談で済まされる。
 この冗談はとても性質が悪いものだが、それでも今ならまだ間に合う筈だ。
 しかし、リボーンはランボの両腕を拘束し続け、手はランボのズボンへと伸ばされた。
 そしてズボンの布越しに、ランボの性器を撫で上げる。
「ぅ……っ」
 ズボン越しとはいえ性器に触れられた瞬間、ランボは大きく息を飲んだ。
 自分しか触れた事が無い場所に、ズボン越しとはいえリボーンの手が触れたのだ。それは信じ難い事でランボは愕然となる。
「リボーン、待ってよ! こんなの変だよ!」
 ランボは願うように叫ぶが、リボーンの手は容赦無くランボのズボンの前を寛げ始めた。
 寛げられたズボンの隙間からは下着が覗き、ランボは曝されていく下肢に酷い羞恥を覚える。
 リボーンの前で下肢を曝すなど今まで予想もしていなかった事なのだ。
「お願いだから、もう止めてよ!」
 ランボはあまりの羞恥に激しく身を捩り、ソファから転がり落ちるようにして何とか逃れようとする。
 それはランボの渾身の抵抗であり、此処で逃れる事が出来たなら、冗談で済ませられる最後の砦だった。
 だから、ランボはとにかく逃げようとした。
 リボーンの手を振り解き、足掻くようにして部屋の扉を目指した。
 だが。
 だが、逃げようとした身体は強い力に捕らえられ、叩き付けられるようにソファへと押さえつけられる。
 そう、拘束が解放される事はなかった。ソファから転がり落ちた身体は、強引に元の場所へと引き戻されたのだ。
 それは有無を言わせぬ力で行使され、この事態が冗談では終わらないと示されるものだった。
「そんな……っ」
 ランボは信じ難い現状と、これから続くだろう行為に恐怖を覚える。
 この事態が冗談で済まされないのなら、いくら歳相応の性知識しか無いランボでも、この先に続く行為など考えなくても分かってしまう。
 男同士だからとかそういった常識的な事が頭を過ぎるが、今は相手がリボーンという事に一番混乱していた。
 だって、ランボの知っているリボーンはこんな事はしない。
 情けない事だが、リボーンは十年以上前からランボなど歯牙にも掛けない事が多かったのだ。
 だから、寄りにもよってこんな行為をする為の対象としてランボを見ていた筈はない。そして何より、ランボが希望として描いたリボーンとの関係にこんな行為は有り得ない事だった。
 しかし、寛げられてしまったズボンは容易くランボの足から抜け落ち、下着だけになってしまった下肢がリボーンの前に曝される。
 それだけでも充分な躊躇いを覚える姿であったが、リボーンの手は下着にまで伸ばされた。
「嫌だっ、見るな……!」
 徐々に下着が脱がされ始め、ランボの性器がリボーンの前に露わになっていく。
「見るな! 見るなってば!」
 性器を曝される羞恥と恐怖にランボは震えるが、それでも抵抗を続けた。
 ランボは太腿をきつく閉じ、両足をバタつかせて必死にリボーンの手を止めようとする。
 こんなのは嫌だった。
 こんな訳の分からぬまま行為に及ばれる事は屈辱であり、強引なそれを認めたくない。
 だが、完全に押さえつけられた現状では、そんなランボの思いなど他愛無いものだった。
 ランボの下着はいとも簡単に足から抜き取られ、リボーンの前に下肢の全てを曝す姿になったのだ。
 シャツを残したまま下肢を曝けだす姿は卑猥なもので、ランボのすらりと伸びた白い素足にリボーンは目を細める。
 リボーンは口元に笑みを刻んだままランボの素足を撫で上げると、閉じられている太腿の間に手を差し込んだ。
「ひ……ぅっ」
 内股を撫でられ、ランボは背筋を震わせる。
 それは敏感な箇所を触れられた為の反応であったが、それ以上に恐怖によるものが大きかった。
 今のランボは全身を震わせ、行為に対する恐怖と、それを行うリボーンに対して完全に怯えていたのである。
 そう、ランボはリボーンが怖かった。
 今までもリボーンに対して怖いという感情を抱いた事があるが、今の恐怖は初めて感じる種類のものだったのである。
「ぅ……っ、嫌だ……っ。離してよ……!」
 ランボの瞳からは涙が溢れ、恐怖に彩られた声色で必死に懇願した。
 しかし、その懇願が聞き届けられる事はなかったのだ。
 今までランボの素足を撫でていたリボーンの手が、突然ランボの両足を押し上げたのである。
「い、嫌だ!」
 膝が胸につくほど足を押し上げられ、ランボは顔色を変えた。
 膝裏から両足を押し上げられた事で、自分自身でさえ目にした事が無い場所をリボーンに曝けだす格好になったのだ。
 そう、リボーンの前にランボの白い双丘と、その奥にある密やかな箇所が曝されている。
 それは羞恥以外の何ものでもなく、ランボは無我夢中で足掻きだした。
「お願いだから、もう止めてよ!」
 だが、ランボの足掻きはリボーンにとって意味が無いものだった。
 リボーンの手が剥き出しになっている双丘を撫で上げ、そして指先が固く閉じられている後孔に挿入されたのだ。
「ひ……っ」
 指が挿入された感覚に、ランボは大きく目を見開く。
 挿入される感覚は息苦しいほどの圧迫感と異物感を感じさせるもので、それは恐怖にしか思えなかったのだ。
「どうして……っ、どうしてこんな事するんだよ!」
 ランボは恐怖に歪んだ表情で、涙を零して訴える。
「信じてたのに!」
 そう、信じていた。
 ランボは、リボーンとの間に芽生え始めた感情を、関係を信じていた。
 それは一方的なものであるが、ランボは友情に近いものであると信じていたのである。
 それなのに、リボーンはランボの思いを容易く踏み躙る。
「信じるのは勝手だが、俺にとってお前は格下だ」
 それ以外の何ものでもない、とリボーンは嘲笑うように言い放ったのだ。
 それは十年前から繰り返されてきた言葉だった。
 だが今、この言葉は今までに無く無情に響き、ランボに現状を突きつけた。
 ランボは、変わり始めた関係に思い上がっていた訳ではないが、それでも希望のようなものを抱いていたのである。
 だが今、それは裏切られた。
 最初から無かったものに対して裏切りという言葉は語弊があるかもしれない。でも、今はそれ以外の言葉が浮かばなかった。
 それからの行為は、ランボにとって暴力なのか性行為なのか判断しかねるものだった。
 リボーンの肉棒が強引に挿入され、ランボは引き裂かれるような痛みに泣き叫んだ。
 それらの行為はどんなに泣き喚いても続けられ、恐怖と苦痛しか生み出さなかった。
 ランボは泣きながら自分を犯している男を見上げる。
 視界が涙で滲んでよく見えない。
 でも、そこに映るのはリボーンの姿。
 嘘みたいだった。
 自分を犯しているのがリボーンだという事が信じ難かった。
 ほんのさっきまでは普段と変わらぬ日常だったのだ。
 それなのに、その雰囲気は一瞬にして変わり、今は信じ難い現実の中にある。
 現状は非日常のもので、そう至らしめるこの行為は間違いなく――――強姦だった。





 数時間後。
 リボーンはスーツの乱れを整え、何事も無かったように部屋を後にした。
 部屋には気を失ったランボが残されているが、リボーンはそれを忘れたように部屋を離れる。
 今、先ほどの行為の事を考えたくなかったのだ。
 リボーンは、先ほどの行為が性行為であると分かっているが、それを行った意味を考えたくなかった。
 あの性行為は性欲処理ではないと分かっている。
 自分には数多くの愛人がいるのだ。それなのに、わざわざランボを相手に性欲処理を行うはずが無い。
 だが、それならばどうして最後まで行為に及んだのかが分からなかった。
 リボーンは、最初は冗談のつもりだったのだ。
 ランボが泣いて逃げれば、そのまま解放して何事も無かったように日常を繰り返すつもりだった。
 戯れに押し倒し、冗談のように行為を進める。ただそれだけの行為は、日常の中で流される筈のものだった。
 それなのに、リボーンは逃げたランボを咄嗟に捕らえていた。行為を止める事が出来なかったのである。
 こんな事は、リボーンにとって初めての事だった。
 今まで数多くの愛人と身体を重ねたが、行為の最中に感情を制御出来なくなるという事などなかったのだ。
 そう、それは衝動という言葉が近いかもしれない。
 ランボを自分の下に組み敷いた瞬間、ランボが泣いた瞬間、ランボが叫んだ瞬間、その全ての瞬間にリボーンは衝動を覚えたのだ。
 その衝動がどういった意味を指すのかリボーンには分からない。
 感情を制御出来なくさせる程の衝動など、今まで経験した事がなかったものなのだ。
 リボーンは、初めて覚えた衝動に内心で小さく舌打ちする。
 分からない、という事に酷く苛立ちを覚えたのだ。




 空が夜の色に染まる時間。
 照明が点けられる事の無かった部屋は薄闇に包まれる。
 その薄闇の中で、気を失っていたランボはゆっくりと重い瞼を開けた。
 目を開くと、視界には薄闇に包まれた室内が映る。
 ランボはその光景にハッとし、慌てて身を起こそうとした。しかし。
「つっ! ぅ……っ」
 身を起こす事など叶わなかった。それどころか、少し身を捩る事も苦痛な状態だった。
 下肢は脱力したように力が入らず、無理に動かそうとすると激痛が走るのだ。
 そして何より、その痛みはランボに現実を突きつけるものだった。
 そう、リボーンに強姦されたのだという現実を。
 一方的な思いであったが、抱いていた希望を裏切られたのだという現実を。
「う……ぅっ」
 痛みとともに突きつけられる現実に、ランボの瞳に涙が溢れる。
 今は泣く事しか出来なかった。
 これからの事など、考える事はたくさんある筈なのに。それなのに、今は一切の思考を拒否する。
 犯された恐怖、悔しさ、怒り。そして、裏切られたのだという……悲しみ。
 ランボはそれらの思いを抱き、今はただ泣いていた。





                                     同人に続く




今回は事件ものです。そんでリボランは強姦から始まってますが甘い感じです。
他に輪姦とかも入っててランボが辛い目に遭ってますが、ラストはハッピーエンドです。

あの二人は合意というか、限りなく和姦に近い強姦ですね。
たぶんそれは、私がランボに甘いっていうのと、「二人は愛し合ってるの!」という思いが前提に来ているからだと思います。
だって、しょうがないよ。
リボ様とランボは出会う為に生まれてきて、結ばれる為に生きてるんだから。
もうね、二人は運命なんですよ。





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