タイムオーバー




「これは? これは何てよむの?」
「これは白鳥って読むんだよ。ちょっと難しい単語だね」
 子ランボの質問に、大ランボは優しく目を細めて答えた。
 今、子ランボは「みにくいアヒルの子」という絵本を大ランボの膝上で広げており、二人は仲良く読書中なのだ。
 他にも読めない単語を指差す子ランボに、大ランボも面倒がらずに付き合っている。
 そんな二人の姿はまるで親子のようで、それを見ていたランボも思わず笑みを浮かべていた。
「せっかくのオフなのに、子ランボの相手をしてもらってすみません」
「気にしなくていいよ。子ランボの世話はいつもランボに任せっきりだし、オフの時くらい手伝うよ」
 優しい笑みとともにそう言われ、ランボはうっとりした表情で溜息を吐いた。
 騒がしい子ランボの相手をしているというのに大ランボの表情は穏やかで、その余裕振りに感歎したのだ。
 ランボは大ランボは自分の未来の姿だと分かっているが、今の自分からは想像もできない程の成長振りに憧れを抱かずにいられないのである。
 こうしてうららかな昼下がりの時間。
 ボンゴレ屋敷にある大ランボの部屋では、今日はオフだという大ランボと、それを知って訪れたランボと子ランボがゆったりとした時間を楽しんでいたのだった。
 そうした穏やかな時間が過ぎる中、ふと、部屋の扉がノックとともに開いた。
「帰ったぞ」
 そう言って部屋に入ってきたのは大リボーンだった。
 仕事を終えた大リボーンは綱吉に報告を終えると、そのまま大ランボの部屋を訪れたのである。
「お帰り〜。お疲れ様」
「ああ」
 笑顔で出迎えた大ランボに大リボーンも頷いて返したが、「お前らもいたのか」と部屋にいるランボと子ランボを見やった。
「はい。今日は大ランボがオフだって聞いたので、子ランボが一緒に遊びたいって」
「そうみたいだな」
 大ランボの膝上で絵本を広げる子ランボの姿に、大リボーンも口元を少し綻ばせる。
 落ち着いた大リボーンの雰囲気にランボも少し照れてしまうが、大ランボの膝上にいる子ランボを回収しようと立ち上がった。
 絵本に夢中になっている子ランボには悪いが、年長組の二人は恋人同士なのだ。せっかく大リボーンが帰ってきたのだから、子ランボから大ランボを開放するべきだろう。
「子ランボ、そろそろこっちへおいで」
 馬に蹴られる趣味は無いランボは、早々に部屋から退散しようと子ランボを手招きする。
 しかし五歳児の子ランボに微妙な空気を読むなんて無理な話で、大ランボの膝上が気に入った子ランボが聞き入れる筈が無かった。
「やだ! まだ絵本おわってないもんね!」
 我侭を言う子ランボに、ランボは「……分かっていたよ」と溜息混じりに側まで寄る。
 この世界に子ランボが飛ばされてきて数ヶ月が経過している事もあって、ランボは子ランボの我侭などすっかり慣れてしまったのだ。
 嫌がる事を予想していたランボは動じることもなく、大ランボの膝上から子ランボの小さな身体を抱き上げる。
「絵本はオレが一緒に読んであげるから」
「やだやだ、もうちょっとだけー!」
 駄々を捏ねる子ランボにランボは少し困ってしまいながらも、子ランボが散らかしたオモチャや絵本などを片付けだした。
 だが、こうして退散する準備をしながらもランボは年長組の二人が気になってしまう。
 二人に気付かれないようにしながら、視線をちらちらと向けて二人の様子を窺ってしまった。しかし。
「……わー…………」
 しかし、ランボは思わず表情を引き攣らせた。
 分かっていた事とはいえ、観察していた年長組の二人の様子はまさに恋人同士の甘いそれだったのだ。
 普段の大ランボは憧れの対象だが、大リボーンが絡んだ時だけは別なのである。
「今日は早かったね。帰りはもっと遅いと思ってた」
「ああ、思ったより簡単な仕事だったんだ。なんだ、遅い方が良かったのか?」
 意地悪な大リボーンの言葉に、からかわれた大ランボは「そんな訳ないだろ」と拗ねた素振りを見せる。
 だが拗ねた素振りをしながらも表情は楽しげな笑みを浮かべており、それは軽口を交わす余裕と落ち着きを感じさせるものだった。
 この余裕と落ち着きは、想いあっているという自信からくるものである。
 年長組が見せるそれらは現在のランボにとって直視するのも恥ずかしいものだったが、それと同時に少しだけ羨ましいと思ってしまうものだった。
 何故なら、年長組の関係は今のランボにとって理想だったからである。
 理想の関係とは恋人というものだ。
 そう、ランボはリボーンへの想いを自覚してからというもの、自分の十年後である大ランボを強く意識してしまうのだ。
 だって大ランボは自分の十年後なのである。大ランボが大リボーンの側に寄り添っている姿を見れば、いずれ自分達もそうなるのか……と意識しないでいられる筈がない。
 それは今のリボーンとランボからは想像も出来ないものだが、近い未来の事を思うと落ち着かない気持ちになった。
 それにしても……とランボは思う。
 自分がしている恋愛は、妙な恋愛である。
 だって結果が分かっている恋愛なのだ。
 この恋愛は恋に気付く前から、年長組という結果を示されていた。そして恋に気付いてからも成就すると示されている。所謂、勝ったも同然な恋愛なのである。
 だが、かといってランボは余裕で構えている訳ではない。
 まだ想いを交わした訳ではなく、リボーンからランボに向けられる態度も相変わらずのものなのだ。
 だから、例え最初から結果が分かっている恋愛でも緊張と無縁でいられる訳がないのである。
 こうしてランボは自覚した想いに戸惑いながらも、年長組の様子を目で追い続けてしまう。
 だが、そんなランボの視線に年長組の二人が気付かない筈がなかった。
「どうしたの?」
「い、いえっ、何でもないです……っ」
 不思議そうな面持ちで大ランボに訊かれ、ランボは慌てて頭を振った。
 ランボの様子に年長組の二人は首を傾げるが、まさか本当の事を言える筈がない。
 これ以上訊かれる前に、ランボは子ランボを連れて早々に部屋を出たのだった。





 その日の夕食後の事だった。
 食事を終えて食間を出たランボは、二人分の入浴準備をする為に部屋へ向かう。
 子ランボの世話係を一任されているランボは、入浴する時も子ランボと一緒なのである。
 子ランボを居間で待たせているランボは足早に部屋へ向かっていたが、ふと、背後から大ランボに呼び止められた。
「今から風呂?」
「そうですけど……。どうしました?」
 呼び止められたランボは、自分に何の用だろうかと首を傾げる。
 そんなランボの様子に大ランボは申し訳無さそうな表情で口を開いた。
「明日の事なんだけど、ランボにお願いしたい事があって」
「明日?」
「そう、オレは明日もオフなんだけど、大リボーンとデートの予定が入ったから子ランボの面倒を見てやれないんだ。ごめんな?」
 大ランボから話されたのは明日の予定についてだった。
 子ランボの普段の世話はランボがしているのだが、それを申し訳ないと思っている大ランボはオフの日だけ手伝ってくれるのである。
 しかし明日は大リボーンとオフが重なり、二人で出掛けるようなのだ。
 それを申し訳無さそうに話す大ランボに、ランボは思わず苦笑してしまう。
「謝らないでください。いつもは仕事だから仕方ないですし、それに今日だって手伝ってもらって助かりました」
 そう言ったランボに、大ランボは安堵とともにニコリと笑う。
「ううん。いつも子ランボの世話を任せっきりだし、子ランボはオレの過去でもあるんだから、オレだって手伝いたいんだよ」
「そう言ってもらうとオレこそ助かります。有り難うございます」
 ランボは照れたように小さく笑うと、「それじゃあ、部屋に戻りますから」と会話を切り上げて踵を返そうとする。
 だがその前に、またしても大ランボに呼び止められた。
「どうしました?」
 ランボはまた首を傾げたが、自分を見つめる大ランボは含みのある笑みを浮かべており、何だか少し嫌な予感がする。
 そしてその嫌な予感は、別の意味で当たってしまうのだ。
「ランボも、いつかリボーンとデートできるといいね」
「え……っ」
 この瞬間、ランボはギョッとした表情になった。
 大ランボの言葉は軽口のような何気ないものだが、顔には含みのある笑みが刻まれていたのだ。
 その含みとは「ランボはリボーンが好きなんだよな」と突きつけるものである。
「な、なな何を……っ」
 含みに気付いたランボは落ち着かない様子で表情を引き攣らせた。
 何とか誤魔化そうとするが、自分に向けられる大ランボの含みから逃れるのは難しい。
 大ランボに指摘された通り確かにランボはリボーンへの想いを自覚したが、その想いを誰にも打ち明けた事はないのだ。
 それなのに、どうして大ランボがそれを知っているのだろうかと焦ってしまう。
 しかし、焦ったところでそれは考えるでもなく解明されてしまった。
 何故なら、大ランボはランボの十年後なのである。未来の自分なら、現代の自分の事が分かっても不思議ではないのだ。
 それに気付いたランボは、見透かされている自分の想いに溜息を吐いた。
「…………隠しても無駄なんですよね……」
 諦めた表情になるランボに、大ランボは「もちろん」と笑いかける。
 ランボは、悪気が無い大ランボに折れるしかなかった。
「……そうですね、いつかリボーンとしたいですね」
 照れながらも観念したランボ。
 そんなランボに、大ランボはますます笑みを深める。ランボが素直にリボーンへの想いを認めてくれた事が、大ランボにとっては嬉しい事だったのだ。
「オレが言うのもなんだけど応援してるよ」
「有り難うございます……。でも、ほどほどにお願いします」
 未来の自分とはいえ他人から指摘されるのは恥ずかしいものである。
 ランボは少し頬を染めてしまうが、ほどほどにと釘を刺す事も忘れなかった。
 大ランボは尊敬しているが、それは仕事や生活面などに対してだけである。リボーン関係が絡んだ大ランボを信用するのは些か怖かった。
 しかしそんなランボの冷めた反応に対し、大ランボはあれ? と首を傾げる。
「なんかランボって落ち着いてる? せっかくリボーンが好きだって自覚したのに」
「うーん、……そうかもしれません。実はあんまり焦ってないです」
 意外そうに指摘した大ランボに、ランボはあっさりとそれを認めた。
 確かに、大ランボの言うとおりランボはちっとも焦っていなかった。
 せっかくリボーンへの想いを自覚したのに、恋愛に有り勝ちな焦りや高揚というものがない。
 もちろん胸が高鳴ったり、相手を強く意識するという事はあるが、それでも我を忘れてしまうような激しさはなく、どちらかというと穏やかさの方が勝っていた。
 その事はランボ自身も「恋愛ってこんなものなのかな」と不思議に思ったが、激しさより穏やかさが尊い想いだってある筈だと自分を納得させたのである。
 そしてもう一つ理由を挙げるなら、それは目の前にいる大ランボ自身だ。
 年長組の二人の存在が、ランボにゆったりと構える余裕と自信を与えているのである。
「自分でこんな事を言うのもなんですが、いずれリボーンの恋人になれるって分かっていますし、それなら焦る事はないかなって思ってます」
 ランボは照れた表情をしながらも僅かな余裕を覗かせてそう言った。
 ランボがみせる余裕とは、自分の想いは必ず叶うという確信からくるものである。
 それを目にした大ランボは少し困ったような表情になった。
 大ランボは自分の存在が確信の原因だと分かっていたが、今のランボが少しつまらないと思ってしまったのである。
「そうだね。でも……、未来ってどうなるか分からないよ?」
「え」
 突然の言葉にランボはきょとんと目を瞬いた。
 大ランボの表情は普段と変わらぬものだったが、改まって紡がれた言葉にランボは反応が鈍くなる。
「な、何を言ってるんですか。あんまり変な事を言わないでくださいよ……」
 思わぬ言葉にランボは少し困惑してしまう。しかし直ぐに気を取り直すと、目の前の大ランボを見つめる事で安堵にも似た笑みを浮かべた。
 現在のランボが経験している事は、大ランボにとって十年前に経験した事なのである。そんな大ランボにそんな事を言われても説得力はなかったのだ。
「からかわないで下さい。それより、オレはそろそろ子ランボを風呂に入れないといけないので失礼しますね」
 冗談には付き合いきれないとばかりにランボは苦笑すると、子ランボの入浴を準備する為に部屋に戻るのだった。
「……もう少し焦ってくれると思ったのにな」
 立ち去るランボを見送っていた大ランボは少し詰まらなさそうな表情になる。
 軽く焦らせてみるつもりの冗談だったが、やはり冗談は冗談だと気づかれてしまった。
 しかし立ち直りの早い大ランボは直ぐに「まあいいか」と気を取り直す。
 ランボは大ランボにとって過去の自分なのだ。
 過去の自分が幸せという事は自分も幸せという事なのだから、それで良いと思い直したのである。







 翌日。
 朝から年長組の二人は出掛け、リボーンと子リボーンは仕事に赴いた為、屋敷にはランボと子ランボが残された。
 ランボは、今日は天気に恵まれている事もあって部屋の掃除を始めだす。
 本来なら掃除などは屋敷の従事者達の仕事なのだが、ランボは自分が寝泊りしている部屋は自分で掃除したいのだ。
 そして、朝から部屋の掃除をしているランボの足元で子ランボが駆け回っている。
「ランボさんもお手伝いする! ランボさん、お掃除じょうずなんだよ!」
 掃除機をかけているランボを興味深そうに見ていた子ランボが騒ぎ出す。
 だが、手伝うと申し出る子ランボにランボは溜息しかでなかった。
「手伝わなくていいよ。ちゃんと手伝ってくれた事ないだろ?」
 そうなのである。子ランボが自分からお手伝いを申し出て本当にお手伝いをした事はないのだ。
 最初は真面目にするお手伝いも、最後は必ず遊びになっているのである。
 それを分かっているランボは当然ながら子ランボの騒がしい申し出を断った。
「えー。ランボさんじょうずなのに〜」
「ダメ。掃除が終わったら遊んであげるから、ちょっと待っててよ」
「ホントに?」
「本当だよ。だから掃除が終わるまで待っててよ」
「分かった!」
 納得した子ランボは大きく頷くと、掃除の邪魔にならないように部屋の隅でオモチャを広げて遊びだす。
 そんな子ランボの姿にランボは優しく目を細めると、さっさと終わらせてしまおうと掃除を頑張るのだった。
 こうして時間が過ぎる中、ふと、部屋にノックの音が響いた。
 それに気付いたランボは掃除の手を止めるが、返事をする前に扉が開かれる。
「あれ、リボーン」
 部屋に入ってきたのはリボーンだった。
 だが、ランボはリボーンの姿に首を傾げる。
 リボーンは朝から仕事に赴き、帰宅は夜の予定なのだ。まだ昼前だというのに、屋敷にリボーンがいるとは思わなかった。
「仕事は?」
「予定変更で今日はオフになった。それよりツナから言付けだぞ」
 ランボの質問にリボーンは素っ気無く答えると、そのまま綱吉からの言付けを口にする。
「ツナが買い物に行ってほしいそうだ。急ぎじゃねぇから暇な時に行ってくれって」
 リボーンはそう言って綱吉から預かってきたメモをランボに渡す。
 ランボは綱吉が自分を名指しして買い物を頼んだ事を不思議に思ったが、リボーンから受け取ったメモを目にして直ぐに納得した。
 メモに書かれていたのは、綱吉とランボが懇意にしている菓子店だったのだ。
 綱吉とランボはティータイムを一緒に楽しむ事が多く、気が付けばお気に入りの菓子店などからティータイム用のお菓子を頻繁に仕入れていた。
 そんな事もあって、綱吉は菓子店に予約していたケーキをランボに取りに行って欲しいとメモに記したのである。本当なら屋敷の従者の仕事であるが、ついでに子ランボも連れて行って好きなお菓子でも買ってやるように、という心遣いだ。
「分かった。子ランボも連れて行ってくるよ」
 ランボは予約したケーキに思いを馳せてそう言うと、それを側で聞いていた子ランボがピクリと反応する。
「なになに? ランボさんも連れてってくれるの?」
 自分の名前を口にされた子ランボは、遊んでいたオモチャを放り投げて嬉しそうに駆け寄ってきた。
 やはり一人で遊ぶよりも、誰かと一緒にいたいのだ。
「うん。この掃除が終わったら一緒に買い物に行こう。子ランボが好きなお菓子も買ってあげるよ」
「ヤッタ〜! ランボさん、ぶどうのアメが欲しい!」
 大はしゃぎする子ランボにランボもつられて笑みを浮かべると、「一つだけだよ」と子ランボの頭をよしよしと撫でる。
 だが。
「あれ……?」
 気のせいだろうか、撫でた子ランボの頭が普段よりも熱を持っているような気がした。特に額の部分などである。
 それに違和感を覚えたランボは、もしかして……という思いで子ランボの小さな身体を抱き上げる。
「……やっぱり」
 そして抱き上げてみて違和感は確信へと変わった。
 子ランボの小さな身体はどうやら発熱しているようなのだ。
 まだ微熱のようで子ランボ自身は気付いていないが、このまま放っておけば熱は上がってきてしまうだろう。
 子ランボには可哀想だが、一緒に買い物へ行こうと言った先ほどの約束は撤回しなければならない。
「子ランボ、ちょっと熱があるみたいだ。やっぱり買い物は我慢しような」
「やだやだやだ〜! オレっちも行くー! ブドウのアメ買うもんね!」
 説得を試みたランボだが、しかし当然ながら子ランボが聞き入れる筈がなかった。
 子ランボは今にも泣き喚きそうに騒ぎ出したのだ。
 騒がしい子ランボにランボは辟易するが、かといって発熱している子ランボを連れて行く訳には行かない。
 どうしたものかとランボは悩んだが、やれやれ……といった気分で妥協案を出した。
「分かった。それなら良い子にお留守番してたら、オレがたくさんブドウのアメを買ってきてあげるよ。プリンやゼリーだって買ってくるよ?」
「本当に? プリンとゼリーも?!」
 最初は渋っていた子ランボだったが、追加されたプリンとゼリーに表情を輝かせる。
 ようやく納得してくれそうな子ランボに、ランボも安心したように大きく頷いた。
「うん。子ランボがお留守番してたらね」
「分かった! オレっちお留守番じょうずなんだもんね!」
 ヤッタ〜! と騒ぎ出す子ランボを、ランボは苦笑して部屋にあるベッドまで連れてってやる。
 ついでにパジャマを子ランボに着せると、ランボはリボーンを振り返った。
「子ランボは熱があるみたいだし、街へはオレが一人で行ってくるよ」
「ああ。子ランボの事は屋敷の者に言っておく」
「うん。頼んだよ」
 ランボはそう言って子ランボをベッドに寝かせると、良い子にしているように言い聞かせる。
 子ランボ自身はまだ元気そうだが、風邪は油断大敵なのだ。
「子ランボ、ちゃんと寝てたらお菓子をたくさん買ってくるからね」
「うん。オレっち賢いんだよ。だからたくさんお菓子買ってきて!」
「分かってる」
 ランボはやれやれとばかりに返事をすると、さっそく出掛ける準備を始める。
 今から出発しなければ、帰りは暗くなってしまうだろう。
 手早く準備を終えたランボはそのまま部屋を出ようとしたが、ふと、扉の側に立っていたリボーンと鉢合う形になる。
 リボーンはランボに言付けを伝えてからも部屋を出ず、風邪を引いた子ランボの様子を眺めていたのだ。
「熱は大丈夫そうか?」
「どうだろう……。微熱のまま下がっていってくれればいいけど、まあ普通の風邪だと思う」
 今の子ランボの様子では熱の状態など計りようもなく、本人は元気そうにしている事もあって寝ていれば治ってしまいそうだった。
 ランボはベッドに横になっている子ランボを振り返ったが、自分の側で同じく子ランボに視線を向けているリボーンに気付き、何だかその存在を強く意識してしまった。
 リボーンに他意はなく全ての動作が何気ないものだと分かっているのに、その全てを意識してしまう。
 ランボはリボーンとの関係に焦りなど覚えた事はないが、それでも本人が近くにいると胸が高鳴るのだ。
「リボーン」
 ランボが名前を口にすればリボーンが振り返った。
 呼んでみたものの言葉に詰まるランボは、少し迷ったように視線を泳がせる。
 期待を籠めてリボーンの名前を口にしたが、その期待を言葉にするのが躊躇われたのだ。
 そのランボの期待とは、一緒に出掛けたいという何気ないものだった。
 こうして出掛ける前にリボーンと偶然にも鉢合わせる事ができ、出来るなら一緒に出掛けられたらいいなと思ったのである。
 何気なく思ったそれは、淡い期待という軽いものである。
 そして何より、リボーンという男をよく知っているランボにとって、その淡い期待が叶えられる可能性が低い事も知っている。
 だから本気で叶って欲しいと思っている訳ではなく、叶えば良いなという淡いものだった。
「あ、あのさ、オフになったんだったら一緒に街へ行かない?」
 断られる事を当然と考えているランボは軽い調子を装って誘ってみた。
 内心では緊張で胸が痛いくらいなのだが、表情だけは普段通りの自分を装ったのである。だって断られると予想しているのに、本気でお願いするなんて滑稽だと思うのだ。
 だが、リボーンの返事は直ぐに返ってこなかった。
 不思議に思ったランボはちらりとリボーンに視線を向け、そしてリボーンの表情に意外さを覚えた。
 断られる事を覚悟していたランボだったが、予想に反してリボーンの表情に嫌悪感はなく、少し驚いた様子でランボを見ていたのだ。
「あの、リボーン……?」
 思わぬリボーンの反応にランボは困惑するが、「無理ならいいんだけど……」と場の空気を誤魔化すように言葉を続ける。
 だが。
「無理じゃねぇぞ」
「えっ」
 リボーンから返されたのは、ランボが予想もしていなかったものだった。
 だってそれは、ランボの淡い期待が叶えられるものだったのである。
「無理じゃねぇって、それって……」
 ランボは信じられない思いで呟いた。
 予想もしていなかった展開にランボは困惑を隠し切れない。
 しかしその困惑は徐々に喜びへと変化していく。この予想外の展開は、ランボにとって願ってもないものなのだから。
「それって、一緒に行ってくれるって事だよね!」
「……まあな」
 表情を輝かせるランボにリボーンは苦虫を噛み潰したような表情になるが、確かに行くと返事を返した。
「先に行ってるぞ」
 リボーンはそう言うと、ランボを置いてさっさと歩いていってしまう。
 どういうつもりでリボーンが一緒に行ってくれるのか分からないが、この予想外の展開をランボは見過ごしたくない。
 気紛れなリボーンの気が変わらないうちに行動あるのみだ。
 ランボは留守番する子ランボに「良い子でいるように」と言い残すと、慌ててリボーンを追い駆けたのだった。






                               
続く




今回から次の書き下ろし「トリプル・トラブル」かけて話しが繋がっているんですが、この後ちょっとシリアス展開になります。





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